イベントの詳細

2009/09/01 8月20日、21日開催 FD合宿報告事務局

■話題提供T「PBLを大学教育に導入する意義」

 話題提供者の佐藤洋一先生より、医学教育において教育改革を行うことになた背景やその改革の1つとしてPBL(Problem Based Learning/Project Based Learning)を導入することになった経緯等について話題提供をいただきました。
 医学教育では、医学の膨大な知識を学ばせるにはそれをそのまま講義形式で伝達するよりも自分で必要な知識を得ることができる力を身につけさせることの方が重要である、という認識があり、TeachingからLearningへの転換も早くから行われてきました。その結果がPBLやPBL-Tutorial形式の授業として現れています。ただし、このPBLやPBL-Tutorialはすべてを解決できる万能な方法ではないので、従来の講義等と上手く組み合わせ、双方の良さが活かせるような工夫が必要である、という指摘がありました。そして、具体例として、アメリカのメディカルスクールでは、講義形式をやめて、ほぼすべての授業をPBLで実施するカリキュラムがとられた大学もあるとのこと、また、日本の大学でもそれぞれの大学が独自に工夫しながら、PBLを導入しているとのお話がありました。

■プログラムT「現在行われている授業の問題点を考える」

 話題提供Tを受け、プログラムTでは、現在の岩手大学の授業(講義、演習、実習等)の問題点を抽出する活動を行いました。具体的には、グループ単位で、割り当てられた転換教育、教養教育、専門教育の各教育課程別に問題点カードに記入し、模造紙の上にカードを広げて整理する手順で行いました。
 グループワークの後、班毎に模造紙を手に発表を行いました。問題点としては、「学生の問題」「教員の問題」「カリキュラムの問題」「環境の問題」等が上がっており、これらの問題が単独で存在する、というよりも、相互に関連していることが確認されました。

■話題提供U「導入教育・専門教育でのPBLの具体例紹介」

 引き続き、佐藤先生より「導入教育・専門教育でのPBLの具体例紹介」というタイトルで話題を提供していただきました。PBLには、大きく「テーマ型(ある与えられたテーマに対し、問題点抽出、情報検索、結果発表などの作業を体験し、問題解決のためのプロセスを身につけることを目的とする)」と「シナリオ型(具体例を通じて、学んだ知識の応用方法を身につける)」があり、岩手医科大学では、1年次前期に「地域医療見学研修」というテーマ型PBLに取り組んでいるそうです。この研修では、学生たちは自分たちで見学先の地域医療の現場を決め、アポイントを取り、インタビューを実施し、それをまとめて発表するというグループ活動を行います。発表内容は年を追うごとに高度になってきており、1年生でもこれだけできるのか、と感心させられるそうです。2年生では、映画『レナードの朝』を題材にしたテーマ型PBLにも取り組んでおり、その様子のビデオが紹介されました。
 次に、三重大学、岐阜大学の医学部で取りくまれているPBLを取り入れたカリキュラムの紹介があり、岐阜大学が制作したチュートリアルシステムを紹介したビデオを視聴しました。このビデオには、「良い例」の紹介だけではなく「悪い例」の紹介もあり、PBLは良い面もあるが、必ずしも万能の方法ではないこと、そして、現在はPBLに対して見直しが行われていることも紹介されました。

■プログラムU「PBLを取り入れた解決方策を考える」

 プログラムUでは、プログラムTで抽出された問題点の解消に、PBLの手法を取り入れられないかについてグループで議論を行いました。グループからは、「PBLは学生の学習意欲の向上、とういう問題解決に役に立つだろう」「教員の確保が難しいだろう」「カリキュラムの中での位置づけが難しい」「ゼミや卒業研究等でやってきたものがこのPBLにあたるだろう」「上手く取り入れれば、授業外での学生の自主的な学習が期待できるのではないか」「講義とPBLのハイブリッド型の授業なら良いのではないか」「基礎ゼミや情報基礎などの科目は、PBLのように、担当教員が学部を超えた共通意識をもって取り組むべきだろう」など、様々な意見が出されました。医学部で臨床実習を担当する教員からは、「PBLを受講した学生は、自分たちで調べたり、チームで話し合いをする経験を積んでいるので、臨床実習の指導が明らかに楽になった」との発言がありました。
 質疑応答の中で、話題提供者の佐藤先生より、「PBLには当然欠点があり、出来る学生には不満もある。中間層の学生を伸ばすにはいいが、上と下の学生には決して最適な方法ではない。そのような欠点もあって、今、発展的解消の時期がきている」、「PBLを導入して意義があったことは、教育に対して教員間のコミュニケーションが促進されたことである。個々の教員ではなく、全学的に、組織的に教育を行う土壌ができたことである」といった意見をいただきました。

■プログラムV「中教審答申に書かれている『学士力』を学ぶ」

 2日目のプログラムVでは、ファカルティ・ディベロップメント合宿研修会資料集に収録されている中教審答申等の資料を読み、「学士力」なるものの概念を共有することを目的として行いました。時間が十分に確保できなかったこともあり、資料の読み込みや要約の作成には苦労されておりましたが、それぞれの大学において、「卒業するすべての学生に身につけるべき力」として「学士力」を考えていかなければならないことが共有されました。

■プログラムW「導入教育・専門教育でのPBLの具体例紹介」

 引き続き、岩手大学のすべての卒業生に身につけさせるべき「学士力」と、その指導方法、評価方法等の検討を行い、発表を行いました。「学士力」としては、「問題解決能力」「コミュニケーション能力」「論理的思考能力」などが挙げられ、「知識・スキル・社会的責任」の3つの分野に分類する、「知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、総合的な能力」の4つの分野に分類する等のアイデアも出されました。また、「基礎ゼミ」やその他の授業科目の中でも、お互いの独立性は維持しつつも横のつながりを持たせるため、担当教員間で理念を共有することが必要、との意見がありました。さらに、評価方法としては、「卒業研究の公開発表会」「卒業論文」によるもの、「卒業試験」によるもの、「卒業後評価」など外部からの評価、授業の中では「ポートフォリオ」の活用などが挙げられていました。
 全体討論では、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシー、アドミッションポリシーに関する話題が出され、わかりやすいアドミッションポリシーを社会に向けて発信する必要性が確認されました。また、「PBL」や「学士力」等、上から押しつけられることの弊害を懸念する意見が出ましたが、それに対しては、例えば、教員は、学生が卒業するときに「りっぱになったな」と感じるけれども、このように学生が学生生活で身につけた言語として表現し、社会に対して示すことが求められているのではないか、それが「学士力」ではないか、といった意見が出されました。
2009年8月20日〜21日 FD合宿報告書  ファイルサイズ/4942KB
[←戻る]
ページの先頭へ